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歴史が織りなす新鮮なデザイン

入り口を入ると「カタンカタン」と小気味よい音がした。「賑やかですみません。」とにこやかに出迎えてくれたのは京都・西陣岱﨑(やまざき)織物の山崎徳子さん。
ここは西陣金襴を製作している会社である。金襴は糸に金箔を巻きつけた金糸を用いて柄を表現する織物である。一言で金襴と言っても種類によって分業されているようだ。袈裟、ひな人形、能や歌舞伎の衣裳そしてここで織られているのは表装金襴である。表装金襴は掛軸などに使用される。金襴の中でも薄手の生地に仕上がるのが特長の一つと言えよう。
岱﨑織物はこの織物を表装以外のものにも使用できないかと新しい道を模索しつつ、展示会にも積極的に参加してきた。そして、とある展示会でmatohuと出会う。大抵の企業はサンプルに持参している生地を参考品としてお見せするとその中から「この柄で作っていただけないか」という話になってしまうという。しかし、matohuは違った。まず、デッサンを送ってくれた。

図案から新しく創り上げるということはアパレルでは初めてのことだった。この世界にいると既成概念にとらわれてしまうこともある。だから、こうして逆に提案してくれることは大変ありがたいと山崎さんは言う。糸、織機、技術があれば様々なことに挑戦できると思う。だから、新しいことをトライしていきたいし、お客様のご要望にはできる限り応えたい。しかし、量をつくるということに於いては限界がある。
西陣織は手間と時間が掛かるのだ。どれくらいなのかというと、紋紙270枚分(紋紙とは紋織り機に付属した厚紙に穴を開けたもので柄のデータがここに記されている)、要するに270回糸が行き来して、漸く4.5センチの生地が出来上がる。1日8時間織機を稼働させたとして4~5メートルしか織ることができないのである。早く織りあげたいとスピードを上げたりしたら負荷がかかり糸が切れてしまう。だから適切な早さより早いスピードで織り上げることが出来ないのだ。これが通常のアパレルで採用されにくい点の一つでもある。

しかし、matohuはこのような大変な作業を楽しんでいるようにも見える。量産する訳ではない。だからこそ出来上がった服に価値が生まれる。この生地で創られた服を心から愛してくれる、そんな人の手に渡ったら…。とその先の喜びを想像し、山崎さんと一から創り上げている。それは、糸や箔の色味など細部にわたりmatohuデザイナーの案が採用されていることにも垣間見ることができる。

西陣織というと格式が高い印象がある。古くから愛されている織物だが生活に身近な織物かと言われるとそうでもない。今年はこの西陣織を身近に親しむチャンスの年でもある。「西陣」この名は応仁の乱の際、西に陣を置いたことに由来する。そして「西陣」と呼ばれるようになって今年で550年を迎える。これを記念して京都精華大学と西陣織工業組合及び京都市交通局が連携して制作した市バス「NISHIJIN BUS」が今年の9月にお目見えした。広告枠や座席シート、つり革ベルトなどに西陣織が施され、触れることができるのだ。他にも駅伝の襷やゴールテープなどにも西陣織が採用されている。熟練の職人が織機と対峙し、織り上げられる西陣織。その価値を知るとその柄、生地にもより深い関心を寄せることができるのではないだろうか。 Photo:Tetsuya Haneda

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